|
|
|
【4.相続手続の基礎知識】 3-2.賃貸不動産を相続する場合 |
|
|
一般的な不動産の相続手続(所有権移転登記)に関しては【不動産の相続登記方法】のページをご参照ください。
自宅や田畑、山林などを相続する場合は単純にその所有者の名義が変更されるということだけになりますが、相続財産の中に賃貸物件があるという場合には「登記」とは別な視点で考慮しなければならないことがありますので注意しましょう。
アパートやマンションなどの賃貸住宅を所有していた場合や、駐車場などとして土地を賃貸していた場合、賃借人との間に「賃貸借契約」や「借地権契約」などの契約書類を交わしています。そして、その契約書上の貸主は亡くなった被相続人の名前になっています。
そこで「すぐにでも新しい契約書を作らなければ問題が起こるのでは?」と考えてしまう方も多いかもしれませんが、その点についてご安心下さい。
■所有権移転登記完了までの間は相続人の共有財産
賃貸人(部屋を貸している人)が死亡したからといって、賃借人(部屋を借りている人)との間で交わされた「賃貸借契約」が無くなってしまうというわけではありません。所有者が亡くなっても契約は有効であり、仮に登記などの手続をしなかったとしても自動的に法定相続人全員に対して法定相続分の所有権が発生することになります。また、貸主としての地位も相続人に自動的に承継されます。
つまり、賃貸不動産の名義人である被相続人が亡くなってから、名義変更(所有権移転登記)をするまでの間は、相続人全員の共有財産になるのです。例えば、夫が亡くなり、妻と子ども2人が法定相続人というケースであれば、夫名義の賃貸不動産は妻が1/2、子どもがそれぞれ1/4ずつの持分での共有となるのです。
しかし、共有持分の不動産は様々な契約をしたり、修繕を行ったり、あるいは賃貸借契約を結ぶ上でも非常に面倒なことが多くなってしまいますので、できれば相続人の誰かが単独で相続することが望ましいでしょう。
例えば、上記の例で長男が賃貸不動産を相続して、父に代わって新しい「大家さん」になるとします。この場合は【不動産の相続登記方法】のページで説明した通りの手順で長男名義に所有権移転登記を行います。
ここで問題になるのが、上記所有権移転登記が完了するまでの間の家賃の収納や新しい入居者との契約です。
まず家賃の収納についてですが、これまで被相続人名義の銀行口座に振り込みがされていた場合、その口座が金融機関によって凍結されてしまうことが考えられます。凍結された口座は引き出しはもちろんのこと、振込を受けることもできなくなってしまいます。
長男が相続することが決まっていたとしても、所有権移転登記が完了するまではあくまでも相続人全員の共有財産ということになってしまい、その間の家賃は法定相続分で各相続人のものであるという判例が示されています。(平成17年最高裁) 賃貸不動産に関する相続の話し合い(遺産分割協議)がうまくいかない場合などは、家賃に関する権利でもめてしまうこともありますので注意が必要です。
少し面倒な話しになりますが、民法では不動産に関して「保存行為」「管理行為」「変更行為」といった規定があります。例えば、物件に対して雨漏りなど修繕が必要な場合には当然業者に依頼して修理をすることになりますが、これは「保存行為」に該当します。保存行為に関しては相続人が単独で行うことが可能ですので、長男なり妻なりが修理することは可能です。
ここで問題となってしまうのが「新しい入居者との新規契約」に関してです。賃貸借契約を新規に行うことは、その物件を「使用」することでありまた「収益」を得るための行為であり、これは「変更行為」にあたります。
民法ではこの「変更行為」については、共有者全員の合意が必要であると規定しています。つまり、妻と子ども2人の全員が合意しなければ、新しい入居者との間で新規の賃貸借契約を結ぶことはできないのです。仮に円満に長男が相続することで合意していたとしても、所有権移転登記が完了するまでの間に新規契約を結ぶ場合には、共有者である3人が契約者(賃借人)とならなければならないのです。
賃貸物件は入居者がいなければ収益を上げることができませんので、入居者募集は非常に重要なこととなります。所有権移転登記が完了していないからといって、せっかくの入居者に対して断るといったことは大きな損失になってしまいますので、できるだけ早く遺産分割協議を行い所有権移転登記を完了させることが大切です。
ちなみに「管理行為」とは、一般的に短期賃貸借契約のことを言います。これは1ヶ月や半年といった短期間の賃貸借契約となりますが、この「管理行為」に関しては共有者の過半数の同意があれば可能です。
■入居者との契約書についての問題
相続が開始される前から入居している人は、当然のことながら、故人(被相続人)との間で賃貸借契約を結んでいます。
では、新たに長男が所有者となった場合にはすぐに、長男名義での新しい契約書を作成する必要があるのでしょうか?
これについては、特に急いで新たな契約書を作成する必要はなく、次回の契約更新時に再作成するという方法が一般的です。
しかし、入居者に対しては「賃借人変更通知書」を送付して「大家さんが変わりました」ということを伝えておくことが望ましいでしょう。この通知書の中で「次回の契約更新時に新しい契約書を作成する」という文言を入れておくようにしましょう。また、故人名義の口座に家賃を振り込んでもらっていたような場合には新しい振込先を伝えることも大切です。
■相続人が決まらない場合
相続人間での話し合い(遺産分割協議)がまとまらず、相続人が確定しない場合は上記の通り法定相続人全員の共有物件ということになります。
話し合いがまとまらない理由としては、利益の上がる物件の場合でその権利を争うということもあるでしょうが、逆に空室も多く「赤字」であるため誰も相続したくないと考えるケースもあるでしょう。
後者の場合であれば、売却してしまい少しでも現金化したいと考えるかもしれませんが、現在入居している方との賃貸借契約を一方的に打ち切ることはできません。また仮に契約満了の時期を迎えたとしても、正当な理由がなければ更新を拒むこともできないことになっているのです。入居者に対して簡単に立ち退きを迫ることはできませんので、実際に売却できるまでには時間も費用もかかることが考えられます。
また、相続人が決まらない間の家賃は法定相続分に応じてそれぞれの相続人のものということになりますので、その管理や配分などでもめてしまうことも考えられるでしょう。
遺産分割協議がどうしてもうまくいかないといった場合には、家庭裁判所に調停を申立てることになります。詳しくは【話し合いがうまくいかない時】のページをご参照ください。
■相続する人がいない場合
次に、法定相続人が誰もいないといった場合や、相続人全員が「相続放棄」をした場合などはどうすればよいのでしょうか?
法定相続人がいる場合には、特段の手続や申請などをしなくても、賃借人としての地位は自動的に相続人に承継されますが、相続人がいない場合には賃貸借契約が宙に浮いてしまうということになってしまうのです。
この場合には、家庭裁判所に対して「相続財産管理人選任の申立て」を行わなければなりません。
相続財産管理人は相続財産の「管理」について「代理権」を持っていますが、その管理権限については下記の民法103条に定められている行為とされています。
(1)相続財産を保存する行為
(2)相続財産の性質を変えない範囲内においての利用行為、改良行為
これらを超える行為をする場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。
相続財産管理人は、賃料を受領することはもちろん、賃借人との賃貸借契約を解除(双方の合意による)することも可能です。但し、多額の立ち退き料を支払って解約するといった場合には家庭裁判所の許可が必要となる場合もありますので注意が必要です。
■賃貸物件の相続をスムーズにするには
上述の通り、仮に円満に承継者が決まる場合であったとしても、所有権移転登記完了までの間の問題等を考えると、事前に誰に相続させるかということを決めておくということが最も大切であると言えるでしょう。
つまり、生前に遺言書を作成し、賃貸不動産については誰に相続させるかということを明記しておくことが重要なのです。
遺言書があれば、所有権移転登記もすぐに行うことができますので、その他の財産の遺産分割が整わなくても実行可能です。新しい入居者との契約も、すぐに可能ですし、何よりも入居者にとっての「安心」につながると言えるでしょう。
相続登記とは別な問題ですが、賃貸不動産を所有していた方の場合「確定申告」をしていたと考えられますので、死亡後4カ月以内に「準確定申告」をしなければなりませんので注意しましょう。尚、詳細については【準確定申告とは?】のページをご参照ください。 |
|
|
※各種情報はできるかぎり最新の事項を掲載しておりますが、実際にお手続をされる際にはあらためて関係機関にご確認下さいますようお願い致します。また、こちらに記載の情報を基にお客様ご自身がお手続きされた際に生じたトラブル、損失等に関して弊社は一切関知致しませんのでご了承下さい。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|